いつだって謎はすぐ近くにあった『ななつのこ』加納朋子
こんにちは、ぽわろんです。
みなさんは自分の人生で、特別な意味を持った本はありますか?
今日はぽわろんにとって、特別な本を紹介します。
以前このブログで書き記したとおり、ぽわろんは図書館が大好きな子どもでした。
近所の公民館にある図書館の分館で、来る日も来る日も児童書を読み漁っていました。
そしてある時、児童向けの本棚はあらかた読み尽くしてしまったなあと思ったぽわろんは、ふと、大人向けの文芸コーナーに足を運んでみたのです。
何歳の時なのか今でははっきりしませんが、それが初めての大人の文芸書との出会いでした。
本棚の高さが変わって、背伸びをしないと届かないようなところにもズラリと本が並んでいます。
背表紙には難しい漢字が連なり、可愛いイラストもなく、児童書コーナーとは違った荘厳な雰囲気に、ドキドキしたことを覚えています。
知っている作家さんもいない中、何故かこの時手に取ったのがこの『ななつのこ』でした。
日常ミステリーとの出会い
『ななつのこ』の冒頭は、こんな言葉で始まります。
いったい、いつから疑問に思うことをやめてしまったのでしょうか?いつから、与えられたものに納得し、状況に納得し、色々なことすべてに納得してしまうようになってしまったのでしょうか?
いつだって、どこだって、謎はすぐ近くにあったのです。
『ななつのこ』は作中に出てくる本の名前でもあります。
主人公の短大生、駒子は、一目惚れして買った『ななつのこ』(少年の出会う謎に、謎めいた女性が答えを見つける形式の短編集)の作者にファンレターを書こうと思い立ちます。
ファンレターに、駒子の身近に起こった不思議な出来事を綴ったところ、思いがけず作者本人から真相を解明するような返事が届きます。
作中の『ななつのこ』一編一編に合わせて、駒子と作者の手紙のやり取りが繰り広げられるという連作短編集です。
そう、ぽわろんに謎解きのわくわくを教えてくれたのはこの本なのですね。
何も殺人事件じゃなくてもいいのです。
身近な不思議、疑問、これが立派なミステリーになるのですから。
思えば人間は、謎に惹かれる生き物なのですね。
知りたい!という気持ちが大きなモチベーションになって、新しい技術を産んだり、新しい事実が解明されたりする。
身近なところにも謎は転がっています。
「なぜあの席だけ空いているのだろう」とか「あの人はなぜあんな行動をしたのだろう」とか、謎解きをしてみれば、意外な真相があるのかもしれません。
ぽわろんが、人間という奥深い謎に満ちた存在について考えるクセがあるのも、「日常は謎に満ちている」というこの本の教えから、かも知れませんね。
加納朋子さんとは
『ななつのこ』との特別な出会いを果たして、加納朋子さんはぽわろんの特別な作家さんになりました。
時々読み返せるように、家の本棚には著書が全部揃っています。
加納朋子さんは元々OLをしていて、ミステリー作家の北村薫さんに憧れて小説を書いたのだという記憶があります。
確かに北村薫さんの世界観を想起させる作風です。
この『ななつのこ』で第三回鮎川哲也賞を受賞して作家デビューをしています。
現在では、北村薫さんと共に鮎川哲也賞の選考をする側になっていますね。
OLをしていた時は、まさか憧れの作家さんと同じ場所に並ぶことになるなんて、想像もしていなかったのではないでしょうか。
夢のような話だなあと思います。
ちなみに加納さんの夫は、これもぽわろんの好きなミステリー作家の貫井徳郎さんです。
『ななつのこ』は短大生の駒子が主人公ですが、駒子のモデルは加納さんご本人じゃないのかなとぽわろんは想像しています。
なんとなく、イメージが被るのです。
そしてこの駒子は、ぽわろん自身にもよく似ているような気がします。
そう考えると、やはり、不思議な出会いです。
今読み返して
『ななつのこ』が書かれてからもう20年近く。
今読み返すと、さすがにひと昔前という感じもします。
駒子の例えに〈光GENJI〉や『ベルサイユのバラ』が出てきたり、スマホはもちろん携帯もない時代なので、家の電話で会話していたり。
ですが、この作品の持つ温かさは変わらないなあと思いました。
読み返せば、郷愁のような懐かしさとともに、いつでも優しく寄り添ってくれる、そんな大切な本です。
特別な本との出会いのお話でした。
最後までお付き合いいただいた方、ありがとうございます!