ぽわろんの推理ノート

仕事について、人生について、人間のあれこれを考察します

川上未映子『あこがれ』『ウィステリアと三人の女たち』好みの分かれた2作品

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こんにちは、ぽわろんです。

 

今日は本の話です。

最近、初めて川上未映子さんの作品を読みました。

 

きっかけはイギリスの方がMieko Kawakamiの本を紹介している動画を目にしたこと(最近BookTuberさんの動画を観るのが好き)。

英語に翻訳されて海外でも読まれている作家さん、それが日本語の原書で読めるなんて贅沢よな、そんな風に思ったことからです。

逆輸入ですね。ふふ

 

いやぁ、圧倒的な筆力ですね。それゆえ、今回読んだ2作品の感想は「もう二度と読みたくない」と「何度も繰り返し読みたい」と見事に二分しました。「まあまあかな?」という生半可な感想ではなかったです。それだけ圧倒されました。

 

では、読んだ順に2作、ご紹介します。

 

『ウィステリアと三人の女たち』

最初に読んだのはこちら。表題作含む4編の短編から成る短編集です。

 

1話読み終わるごとに自分の中で危険信号が点滅するのを感じました。いやぁ、これは毒だぞと。

 

心を蝕まれるというか、普段蓋をして考えないようにしている自分の傷、闇、不幸を覗き込んで無理やり目の前に突きつけている感じです。

読んだ後、非常に暗い気持ちになってしまい、感傷的な気分になってしまいました。

悪夢を見ているような不安な気持ちになり、肺と肺の間がいたたた…ってなる感じ。(心ってこんな場所にあったんですね)

 

それもこれも圧倒的な筆力と見せ方のうまさの成せる技と思います。

 

主人公がまず自分と同じ年頃の女性なんです。それもあって重ねてしまうところがあるのかな。

そして、全員が不幸。狂気と正気が隣り合わせで、表面上では保っているけど何かが壊れているというか、そんな人たち。

 

例えば、『シャンデリア』という短編では、デパートでひたすら無意味な高い買い物をしてしまう女性の話なのだけど、デパートのシャンデリアの下を通るたびに、今シャンデリアが落ちてくればいいのになんて考えている。希死念慮がね、助けてって声に聞こえるんですよ。いたた…

まぁ、この話は希望もあるんですけど、全部がそんな終わり方じゃない。だから病みます。

これは危険。自分のために再読はしない方がいいと思いました。

 

『あこがれ』

正直、次の川上未映子さんの作品に手を出すのは怖かったです。でも『あこがれ』は小学生の男女の話で、そんな怖い事にはならなそう…と恐る恐る読みました。この判断は正しかった。

これは最高に私の感性にカチッとはまる、大好きな作品でした!

 

佐藤多佳子さんの『サマータイム』という本も青春小説としてずっと好きなのですが、それを凌駕するくらい、ぐっときました。

 

この作品は2つの中編からなります。

第一章 ミス・アイスサンドイッチ

第二章 苺ジャムから苺をひけば

 

第一章は小学校4年生の大人しめな男の子の視点で語られるお話。冒頭から「ぼく」の独特な感性が爆発しています。自分だけのあだなを付けたり、人には理解できないことが好きだったり。

他人との違いに動揺したり、大人になる過程で経験する不安な感情、違和感、自分でもうまく説明できない想いに戸惑ったり。そんな少年期の瑞々しく甘酸っぱい感性を、それはもう見事に表現しているのです。

 

そして、もうひとり、重要な役割を果たす女の子は「ヘガティー」というあだ名で呼ばれています。彼女も他の女の子に媚びずつるまず、独特の感性を持った凛とした子として描かれています。

 

この「ぼく」とヘガティーの会話がとても良いのです。うまく言えないこと、はっきり言うこと、グサって心に刺さって後悔したり、傷を共有したり。そんな関係なんですね。

 

ぽわろんの好きなところはここ。

「わたしはね、『できるだけ今度っていうのがない世界の住人』、になったんだよ。いましかないんだ、ってね。わたしはずうっとまえにそれを決めたの」

「いつ?」

「一年のときだね。紙に書いたの」

「えらいな」ぼくはひとりごとみたいに言った。「えらいな」

 

ヘガティーの強さと、幼い少女が抱えた心の傷が見え隠れするような見事な台詞です。

 

そして、第二章は6年生になったヘガティーの目線で語られる物語。第一章の「ぼく」の名前がここで初めて明かされ、ぐっとまた大人になった感じがします。この仕掛けも憎い。

 

しっかり者のヘガティーが、ある出来事がきっかけで平静を失ってしまうのですが、ふたりで支え合って乗り越えて、絆がまた深まっていくんです。

 

ふたりがバイバイするときの掛け声は「アルパチーノ」です。偶然から生まれた言葉遊びなんだけど、このバイバイをするたびに最初に「アルパチーノ」の話をしたことを思い出すし、ふたりだけにしか共有できない色々な記憶がザアッて蘇る。すごいですよ、もう。

 

読んだ後、色々な感情がごちゃまぜになって泣きたいような気持ちなんだけど、心がぽかぽか温まっているという最高の読後感でした。

本棚に大切に飾って、また読み返したいと思える作品でした。

 

最後に

ある意味、記憶に残る読書体験でした。いやぁすごい作家さんだ。

 

読んだことのない作家さん、まだまだたくさんいますが、海外からの逆輸入なんていうのも、たまにはいいなと思いました(*^▽^*)