ぽわろんの推理ノート

仕事について、人生について、人間のあれこれを考察します

母親に読んでほしい『春にして君を離れ』アガサ・クリスティ

こんにちは、ぽわろんです。

 

 今日はアガサ・クリスティの『春にして君を離れ』の紹介です。

ぼわろんは何度も読み返しては、ゾクっとしています。笑

 

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

作品にまつわるあれこれ 

この本はクリスティを代表する探偵である、ポワロもミス マープルも登場しないノンシリーズ作品のひとつです。


アガサ・クリスティといえば、ミステリー。

ですが、この作品はクリスティが別のペンネームである「メアリ・ウェストマコット」として世に出したもので、ミステリーではないのです。

ミステリーの女王としてあまりに有名なクリスティは、名前を隠して、いくつかの恋愛小説などを書いています。

クリスティ作品のイメージから離れて純粋に読者に読んでほしかったのでしょうね。

今、日本ではどの作品もアガサ・クリスティの名で売られていますから、違いがわかりづらいのですが。

 

いつ見ても、オシャレなタイトルだなあと思います。

英語だと"ABSENT IN THE SPRING"。

これも素敵だけど、日本語訳のセンスが光ります。

 

でも、オシャレなタイトルに騙された!ってくらい内容はインパクト大、ですよ。

 

どんな内容かというと…

ずばり、
「母親にこそ読んでほしい」
一冊なのです。

 

 

本の概要

ジェーンは3人の子の母親。

夫は優しく、子どもも皆幸せに成長してくれて、自分もまだまだ美しく、他人と比較しても充実した人生を歩んできたと自負しています。

娘の嫁ぎ先であるバグダッドに、病気の見舞いに一人ではるばる駆けつけ、その帰り道での話です。

雨で乗り継ぎの電車が何日も来ない状況で、トルコとの国境の宿泊所に取り残されます。

乗客は自分一人。他にいる人間は宿泊所の管理をしているインド人のみ。

周りは国境の柵で囲まれた広場が広がるばかり。

最初は、セカセカ忙しい毎日で、こんなに何もしなくていい時間があるなんてラッキー!くらいに思っていますが、来る日も来る日もあまりにもやることがなさすぎて、ジェーンは考え事をする以外になくなります。

普段考えないこと、自分の人生や家族のことなどに思いを巡らせ始めるのです。

 

自分の思っている順調な人生は果たしてその通りなのか、家族は果たして本当に幸せなのか?

 

自信に満ち溢れていたジェーンが、初めて本当の自分と向き合い、いかに自分が盲目であったか、真実を見つめ始める…

というお話です。

 

なんとも設定が変わってますよね!

回想のシーンがほとんどで、それぞれの出来事に表面と深層の違いがあることが浮き彫りにされていく展開が、もういたたまれないくらいなのです。

 

何がいたたまれないかと言うと、それはクリスティの描く人間が、リアルだから。

こういう心境あるなあ、とか、こんな人いるなあってことばかりです。

クリスティは、そういう意味で人間観察の天才なのだと思います。

衝撃(ほんとに、静かな衝撃なのです)のラストを読んで、ああ、人間って……と思うことでしょう。

 

心に残る言葉の引用

「ぼくははっきりいっておく、エイヴラル、自分の望む仕事につけない男 ー 自分の天職につけない男は、男であって男でないと。」(p.190)

 

「人間なんて、まあ、そんなものよね。しがみついてた方がいいのに、投げだしちまったり、ほっとけばいいのに、引き受けたり。人生が本当と思えないくらい美しく感じられて、うっとりしているかと思うと ー たちまち地獄の苦しみと惨めさを経験する。物事がうまくいってるときは、そのままの状態がいつまでも続くような気がするけれど、そんなことは長続きしたためしがないんだし。どん底に沈みこんで、もういっぺん浮かびあがって息をつくことなんて、できそうにないって思っていると、そうでもない ー 人生ってそんなものじゃないの?」(p.26)

 

「やれやれ、ジェーン、わからないはずはないだろう。我々世の親たちが子どもに対していったい、どういう仕打ちをしているか、考えてもごらん。おまえたちのことは何でも知っているといわんばかりの態度。親の権威のもとに置かれている力弱い、幼い者にとって、いつも最上のことをしている、知っているというポーズ。」(p.130)

 

「結婚とは(中略)成年に達し十分な能力を備えるに至った二人の男女が、理性的に自分たちの行動の意味を考えつつ行う契約だ。いわば連帯の意図の表明だよ。両人はその契約の条項を尊重することを誓約する。すなわち何か不測のことが起こった場合にも(中略)良しにつけて、悪しきにつけ、相手を飽くまでも見捨てない、結婚とはそういう契約なのだ。」(p.187)

まとめ

この作品を読むと、子どものいないぽわろんですが、いつも考えさせられます。

いい母親とは?いい妻とは?

ジェーンは浅はかで愚かな母親なのでしょうか?

でも、自分だったら他の道を選択できるのでしょうか。

反面教師にして、自分を振り返るのもいいですし、いい母親というものを改めて考えてみるのもいいかも知れません。

 

いやはや、クリスティは恐ろしい。