祝ノーベル文学賞受賞!カズオ・イシグロ『日の名残り』紹介編
こんにちは、ぽわろんです。
カズオ・イシグロさんが2017年のノーベル文学賞を受賞したとのニュースが耳に入ってきました。
ぽわろんの特別に好きな作家さんなので、うわあ!と嬉しい気持ちになりました。
そして、せっかくの機会なので、ぽわろんが中でも一番好きな作品『日の名残り』(原題 ”The Remains of the Day”)を紹介させていただきたいと思います。
- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: 文庫
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どのくらい好きかと言いますと、初めて読んだ時あまりにも感動し、もう一度最初から読み直してしまったほど。
さらに、その後本屋に原書を買いに行き、英語で一から読み直したほど。
こんなことは、自分の読書体験の中でも、初めてのことでした。
それくらい、心に響いた作品だったのです。
ぽわろんの拙い言葉ではこの作品の良さ、すごさをうまく説明する自信がないですが、少しでも伝わりますように。
(むしろ勢いに任せたこのタイミングじゃないと尻込みして書けないかも知れません。)
カズオ・イシグロさんとは?
日本人の名前?と思いますよね。
著者は1954年長崎に生まれますが、5歳で家族とイギリスに移住して英国籍を取得しています。
なので、イギリスの方です。
でも、日本にルーツがあるので、日本への想いが垣間見られる作品もあります。
映画化もされている作品です。
日本では、去年『わたしを離さないで』という作品がドラマ化もされていましたね。
『日の名残り』のあらすじ
30年以上、伝統的な英国の館で一流の執事としてつとめてきたスティーブンスが主人公。
彼の一人称で語られるお話です。
スティーブンスはかつての同僚であった、元女中頭のミス・ケントンからの久々の便りをきっかけに、彼女に会うべく車で6日間の旅に出ます。
ずっと館と共に生きてきた彼にとっては、外に旅に出るのも珍しいこと。
道中、自分の執事としての人生を回顧します。
様々な出来事を思い出しては、その都度の対応に執事としての品格を見出し、誇りを持ってダーリントン卿に仕えてきたことを再確認します。
常に職務を第一に考え、冷静に生真面目に物事に対応してきた彼は、執事として周りから羨まれる仕事ができたと自負するのですが、旅も終盤に近づき、もっと己の核心にせまっていく…というお話。
スティーブンスという名脇役
私が心を打たれた理由に、スティーブンスへの共感があったと思います。
とにかく生真面目で不器用で気持ちを上手く伝えられないところ、頑固で自分を曲げられないところも、ぽわろんに似ています。
そして、人生を執事という仕事に捧げたスティーブンス。
執事は主役ではなく脇役。あくまで主役はお仕えする主人です。
スティーブンスは自分が社会の主役になれるような人物ではないと自覚しています。
だからこそ、主役になれる人を信じて支えること、つまり名脇役を演じることが自分の使命であり誇りであると思い定めて生きてきたのです。
ぽわろんも自分に対してそういう評価を下しています。
自分は表舞台に立つ人間ではないと思います。
何か際立った人、きっと社会にいい影響を与えてくれるような人、そんな人を支える縁の下の力持ち的な存在に精一杯なることが、自分の存在意義だと思い定めています。
なので、この作品を読んで、スティーブンスの生き方が自分に重なり、苦悩や迷いや苦しみが自分の心に直接流れ込んでくるような感覚を覚えたのです。
詳しくは説明できない魅力
この作品というか、カズオ・イシグロさんの作品には、ある仕掛けと言える特徴があります。
それが人間の奥深さを際立たせ、読者に衝撃を与え、複雑な感動を与える効果をもたらしているのです。
それはネタバレになるので、ぜひ未読の方はその特徴を知る前に身を任せて作品を楽しんでいただきたいと思います。
※ネタバレを含む〈解説編〉を書きました。
http://poirotdamchan.hatenablog.com/entry/2017/10/07/094646
翻訳も素晴らしい
ハヤカワepi文庫で出版されているのは、土屋政雄さんという方の訳したもの。
この翻訳も、すごくいいのです!
スティーブンスの生真面目さや、品格を見事に表した上品で美しい日本語に訳されています。
原書と読み比べをしても、その巧みさにため息が出ました。
翻訳物、つまり海外の作品が読みづらくて苦手だと言っていた友人に、「騙されたと思って読んでみて」と言って勧めたのがこの作品。
そして思惑通り、友人は大絶賛してくれました。
なので、翻訳物が苦手だという方にもぜひ手にとっていただきたいです。
そして、旅に出て自分を見つめ直すといったお話は、以前紹介したアガサ・クリスティの『春にして君を離れ』にも共通するテーマなような気がします。
ただし、怖さを表現したクリスティ、温かさを表現したカズオ・イシグロという感じで、救いの光を感じさせる後味の良いのは後者です。
静かな話ですが、人間の二重にも三重にもなった複雑な心が表現できる、そんな文章が書けるのが、このカズオ・イシグロさんです。
ノーベル文学賞受賞を祝して…これからも素晴らしい作品を世に出していただきたいと願っています。